がんというのは、ごく普通の正常な細胞が、何かのきっかけで遺伝子が傷つけられて、発生する変異細胞です。
人間のからだは、小さな小さな細胞がたくさん集まってできています。細胞の大きさは、およそコピー用紙1枚の厚さの10分の1くらい(約10マイクロメートル)で、肉眼でやっと見えるか見えないかほどの小さなものです。1人の人間には、その小さな細胞が60億個も集まってできています。ものすごい数です!
さて、その60億個のどの細胞の中にも同じように細胞核があります。この細胞核の大きさは、とても小さくて数ミクロンと言う大きさです(1ミクロンは千分の1ミリ)。この数ミクロンの細胞核の中にDNA(遺伝子)が収められています。
DNAというのは、らせん状にねじれた長いハシゴのような形状で、数ミクロンの細胞核の中に折りたたんでしまわれています。もし、このDNAをほどくと、およそ1メートルほどの長さになります。
ちょっと想像してみましょう。わずか数ミクロンの細胞核を、野球のボールに例えるとDNAは2万メートルもの長さになります。フルマラソンの半分もの距離です。そんな長ーい紐が、からまったりしないで野球ボールの中に収まっているのです。
信じられないような話ですが身体の一つ一つの細胞の中に実際に存在するのです。そんな小さな小さな世界のできごとなのです。
さて、顔のひふの細胞も足のツメの細胞も同じ遺伝子を持っていますが、顔のひふの細胞はDNAの情報の中から顔のひふの細胞として必要な部分だけを使うようにプログラムされます。
足のツメの細胞もそうですし、体のどこの細胞も、とてもたくさんある遺伝子情報の中から自分が必要な部分だけをコピーして使うようにしています。
野球のボールに例えると20キロメートルもあるような大きな情報の中から、必要なところを探すのですから、人間にたとえると東京ドームのようなものすごく広いスーパーでモズク1パックを探すようなものです。
細胞が分裂して新陳代謝が行なわれる時は、DNAの情報がそっくりコピーされるわけですが、この必要とする情報というのは、全てのDNAの情報の中で約10%〜20%ほどだとされています。
正常な状態であっても、こんなにたくさんの情報ですから時には必要な部分のコピーを間違えてしまうことがあります。
このような細かな作業ですから、間違いは必ず起きるものと私たちのDNAはちゃんと分かっていて、間違いがある場合はこれを切り貼りしたり、必要箇所の再コピーなどの修正をしたりする機能を備えています。
生命のメカニズムがいまだに解明されていないはずです。とても神秘的ですね。
もし、この切り貼りや小手先の修正が効かない場合は、DNAの修復メカニズムという機能の出番です。
この修復メカニズムでもダメな場合は、細胞自体を抹殺しなければなりません。それが細胞の自殺(自己崩壊)で、アポトーシスと呼ばれるものです。
しかし、私たちの身体のなかには60億個も細胞があるので、健康なふつうの状態でも、1日におよそ2千〜6千個の変異細胞が生まれると考えられています。
さらに人工的にDNA(遺伝子)のダメージを引き起こすとされているタバコ、食品の有害物質、紫外線、ウイルス、化学物質、電磁波などの発がん物質が加わりますと、
変異細胞の生まれる確率はもっともっと高くなります。
いずれにしても、間違えたり壊れているしているDNAのコピーが行なわれれば、新陳代謝で入れ替わった新しい細胞はもとの細胞とまったく違った遺伝子情報を持つことになってしまいます。
間違えた情報をもつ細胞を正しくする「人体のセキュリティーシステム」の作用をうまくかいくぐり、生き残った1個の変異細胞ががん細胞の元となるのです。
この1個のがん細胞が分裂して増えていくスピードは同じではありません。
だいたい10年〜20年のあいだに約30回ていど分裂し小指の先ほどの大きさになります。このぐらいの大きさになりますと、いろいろな検査で発見されるようになるのです。
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