【アルキル化剤】
構造式の中にアルキル基を持っていて、生体細胞内の核酸やタンパク質などに、アルキル基を導入することができる化合物をこのように呼んでいます。
がん細胞のDNA(デオキシリボ核酸)の2重らせん構造に橋をかけるような形で結合し、DNAを破壊したり複製を阻止したりして、がん細胞に対して致命的効果を発揮します。
『AMA(アメリカ医師会)医薬品評価』では、アルキル化剤に対して、DNA損傷薬という言葉を与えています。
最初の抗がん薬となったメクロメタミンは、第1次世界大戦のざん壕作戦に使われたナイトロジェン・マスタードから導き出されて、1946年にリンパ腺腫の薬として登場しました。
クロランブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファランなどもメクロメタミンの誘導体です。
カルムスチン、ロムスチン、ニムスチンなどのニトロソウレア類もアルキル化剤として使われていますが、日本ではニムスチンだけが発売されています。その他、日米双方で販売されているアルキル化剤には、チオテパ、プロカルバジン、ダカルバジンなどがあります。
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【代謝拮抗薬】
がん細胞の分裂増殖に必要な生合成の過程を阻害する生体内物質と類似の構造を持ったものも、抗がん薬として用いられます。主として核酸代謝の阻害薬です。
葉酸阻害薬としてのメトトレキサート、プリン代謝拮抗薬のメルカプトプリン、チオグアニン、ピリミジン拮抗薬のシタラビン、フルオロウラシルなどは日米両国で使われています。
日本で繁用されているフルオロウラシルの誘導体であるテガフールは、アメリカで注射剤としての治験は行われていますが、内服については治験さえ実施されていません。日本で最も繁用されているUFTは、テガフールとウラシルの配合剤で内服です。
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【植物アルカロイド】
キョウチクトウ科のツルニチニチ草から抽出されたアルカロイド(窒素を含んだ塩基性有機化合物)は20種類ほどありますが、そのうちのビンブラスチンとビンクリスチンにはがん細胞の有糸分裂を阻害する作用があるために、抗がん薬として利用されています。
ナス科の植物ポドフィルムやマンドレイクに含まれるアルカロイドであるポドフィロトキシンにも制がん作用がありますが、毒性が強いため類似のエピポドフィロトキシン(エトポシド)が使われています。
アメリカでは、西洋イチイの樹皮から取り出されたタキソールが卵巣がん、乳がん、肺がんなどに使われていて、最近になって日本でも承認されました。
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【抗がん抗生物質】
抗がん抗生物質の研究は、1945年以降急激に進展し、多くの薬物が発見されています。日本では、1954年、マイトマイシンCが、また1966年にはブレオマイシンが発見されています。
抗がん抗生物質の作用は、がん細胞の細胞膜を破壊したり、遺伝子であるDNAの分解や合成阻害によるといわれています。
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【ホルモン剤・抗ホルモン剤】
ホルモン剤も、がんの治療に使われることがあります。血液のがんの治療には、抗がん薬とともに副腎皮質ホルモン剤がしばしば併用されます。
乳がんの初期治療には外科的手術や放射線治療が行われますが、薬物療法としては、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの作用に拮抗するクエン酸タモキシフェンが第一選択薬として用いられます。
前立腺がんには、エストロゲンやゲスタゲンなどの女性ホルモンが使用されます。注射剤としては、黄体ホルモン放出ホルモンの一種である酢酸リュープロレリンが繁用されています。
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【免疫調整薬】
日本では東洋医学的伝統もあって、体質とか身体の抵抗力(免疫力)というようなことが重視されます。
そうしたこともあって、過去においてがんの免疫療法がとても重視されて、クレスチンやピシバニールが繁用された時代がありました。
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【分子標的治療薬】
ここ数年の間に新しいコンセプトの抗がん薬が開発されました。がんの増殖、転移に関係する分子を解明し、それを狙い撃ちにするため従来の抗がん薬に比較して副作用が少なくてすむと期待されて発売されましたが、現実には、発売後短期間のうちに多くの死者が出てしまいました。
特にゲフィニチブは内服薬という手軽さがあるため多くの患者さんに使われ、不幸な結果を招いてしまいました。
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【その他の抗がん薬など】
以上のほか、葉酸代謝拮抗薬(メトトレキサート)の毒性軽減に使うホリナートカルシウムや、がんの化学療法時の血液障害に対処する薬剤(フィルグラスチムなど)、副作用の嘔吐を止める薬剤、がん性疼痛を緩和するモルヒネ製剤などがあります。
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